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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)11961号 判決 1999年5月27日

原告

村松達也

被告

小西忠弘

主文

一  被告は、原告に対し、金一三二六万九九二〇円及びこれに対する平成三年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三五〇〇万円及びこれに対する平成三年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用車と原告運転の自動二輪車とが衝突して原告が負傷した事故につき、原告が、被告に対し、自賠法三条・民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成三年一二月二七日午前八時一〇分頃

場所 大阪府吹田市片山町一丁目三番一五号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(奈五六は六九一八)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 自動二輪車(一大阪ち八九一二)(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

態様 原告は、原告車両を運転し、片側幅員約四・八メートルの南西から北東に伸びるアスファルト舖装された直線道路(以下「本件道路」という。)を北東方向から南西方向へ直進中、折から本件道路の反対車線を対向進行し、原告車両の進行車線の路外にある駐車場へ進入するため右折進行してきた被告車両に接触し、その場に転倒した。

2  損害の填補 合計六六一万五七八五円

原告は、本件事故に関し、自賠責保険から三三一万円、休業補償給付(労災)として一五六万六七八五円、療養補償給付として一七三万九〇〇〇円の給付を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(被告の主張)

被告は、右折にあたって一旦停止し、対向車両が停止したので右折したものであり、原告車両は、右対向車両の横から進行してきたものであり、しかるべき過失相殺がなされるべきである。

(原告の主張)

争う。

2  損害

(原告の主張)

原告は、本件事故により、第六・第八胸椎圧迫骨折等の傷害を負い、次の損害を被った。

(一) 治療費 合計一九三万七〇四五円

(1) 療養補償給付相当分 一七三万九〇〇〇円

(2) 自己負担分 一九万八〇四五円

(二) 交通費 五〇万円

(三) 休業損害 四六六万四八六四円

原告は、本件事故当時、郵便局の保険外交員として勤務し、給与として年額三六〇万七三五六円、保険外交員報酬として年額五〇七万〇八四七円の収入を得ていたところ(年収合計額八六七万八二〇三円)、本件事故に基づく欠勤一三二日間の給与減額分の休業損害(一五六万六七八五円)及び右欠勤日数と有給休暇使用日数九一日の合計二二三日間の外交員報酬分の休業損害(三〇九万八〇七九円)を被った。

(四) 逸失利益 三二六四万〇四五七円

原告は、本件事故の結果、脊柱変形障害の後遺障害を残して平成九年一月八日に症状固定となった(症状固定時三五歳)。右後遺障害は一一級七号に該当する。

基礎収入を八六七万八二〇三円、労働能力喪失率を二〇パーセント、新ホフマン係数を一八・八〇六として計算すると、原告の逸失利益は次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 8,678,203×0.20×18.806=32,640,457(一円未満切捨て)

(五) 入通院慰謝料 二〇〇万円

(六) 後遺障害慰謝料 三三〇万円

(七) 弁護士費用 二八〇万円

よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右合計額四七八四万二三六六円から損害の填補額六六一万五七八五円を控除した残額である四一二二万六五八一円の内金三五〇〇万円に対する本件事故日である平成三年一二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

原告が第六胸椎圧迫骨折の傷害を負ったことは否認し、その余は不知。

原告の傷害は第八胸椎圧迫骨折のみである。

保険外交員として年間五〇〇万円以上の報酬を得るためには、相当な経費が必要であるから、休業損害及び逸失利益の基礎収入を考えるにあたってはこの経費相当分を控除すべきである。

原告は、郵便局員であるから、少なくとも給与分に関しては、減収はなく、むしろ上昇している。保険外交員報酬についても当然に二〇パーセントの減収があったとはいえず、平成六年を除き、やはり本件事故前よりも上昇している。

3  寄与度減額

(被告の主張)

原告には、本件事故前から骨粗鬆的骨体・脊柱後彎変化があって、そのような素因が症状に寄与するところ大であり、民法七二二条二項の類推適用による三割以上の寄与度減額をすべきである。

(原告の主張)

争う。本件事故前に骨粗鬆的骨体・脊柱後彎変化はない。仮にこれらの変化があったとしても、原告は本件事故前において職務上・生活上何ら支障のない状態であったことから、これらの変化は原告の年齢に比し平均的な変化を超えるものではない。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府吹田市片山町一丁目三番一五号先路上であり、その付近の概況、本件事故当時における停止車両の状況は別紙図面記載のとおりである。

被告は、平成三年一二月二七日午前八時一〇分頃、被告車両を運転し、本件道路の北東行の車線を南西から北東に向けて走行していたが、別紙図面<1>地点で右折の指示器を点灯し、同図面<2>地点で、いったん停止の上、対向車線の同図面<甲>車両に続く同図面車両が停止してくれたので、右折発進し、同図面<3>地点で再度停止をしてから、路外の駐車場に進入しようとしたが、同図面<4>地点で同図面<ア>地点の原告車両と衝突した。衝突後、被告車両は同図面<5>地点に停車し、原告は同図面<イ>地点に転倒した。

以上のとおり認められる。

2  右1において認定した事実によれば、原告と被告の過失割合は、二対八であると認められる。

二  争点2について(損害額)

1  治療経過等

証拠(甲三、四、乙五ないし七、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故によって、第八胸椎圧迫骨折の傷害を負い、平成三年一二月二七日から平成九年一月八日まで吹田市民病院、大阪大学医学部附属病院等の病院に通院し、大阪大学医学部附属病院の医師により同日をもって症状固定と診断されたこと、自算会大阪第三調査事務所において、第八胸椎の圧迫骨折が本件事故によるものと確認され、原告の後遺障害は自賠責保険に用いられる後遺障害等級表一一級七号(脊柱に奇形を残すもの)に該当するものと判断されたことが認められる。第六胸椎の圧迫骨折については、これを認めるには足りない。

2  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費 合計一九三万七〇四五円

原告の要した治療費は、次のとおりである。

(1) 療養補償給付相当分 一七三万九〇〇〇円(甲一一、弁論の全趣旨)

(2) 自己負担分 一九万八〇四五円(甲一七、一八)

(二) 交通費 三二万七三二〇円

原告は、交通費として三二万七三二〇円を要したと認められる(甲一五)。

(三) 休業損害 四六六万四八六四円

証拠(甲五1、2、一二ないし一四、一六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、郵便局の保険外交員として勤務し、給与として年額三六〇万七三五六円、保険外交員報酬として年額五〇七万〇八四七円の収入を得ていたところ(年収合計額八六七万八二〇三円)、本件事故に基づく欠勤一三二日間の給与減額分の休業損害(一五六万六七八五円)及び右欠勤日数と有給休暇使用日数九一日の合計二二三日間の外交員報酬分の休業損害(三〇九万八〇七九円、一円未満切捨て)を被ったものと認められる。なお、被告は、外交員報酬に関してはその経費を控除するべきであると主張するが、郵便局の保険外交員に対しては制服や自転車は配布され、訪問先に配る粗品についても郵政省から金品が別途配られているのであって、特段経費として控除すべきものは存しないと認められる(原告本人)。

(四) 逸失利益 一五三五万六七六二円

前認定事実に加え、原告の本件事故後における外交員報酬の推移(甲七1ないし5、二〇2、二一2)に照らすと、長期にわたる逸失利益算定上の基礎収入に関しては、好景気の時点における収入を基礎にするのは問題であり、控え目認定の原則に従い、逸失利益算定上の基礎収入については、給与分として年額三六〇万七三五六円、保険外交員報酬分として年額三三〇万円を想定するのが相当である。

前認定のとおり、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級の一一級七号に該当するものであるが、原告の職業、支給される各金員の性格の外、後遺障害に関する所見(右圧迫骨折により脊髄への圧迫はなく、背部筋の筋硬直以外神経学的異常所見は特にないこと、甲三)に照らすと、原告は、右後遺障害により、給与分(年額三六〇万七三五六円)についてはその労働能力の八パーセントを喪失し、保険外交員報酬分(年額三三〇万円)についてはその労働能力の一六パーセントをそれぞれ症状固定時(三五歳)から三二年間喪失したものと認められる。

以上により、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 3,607,356×0.08×18.806+3,300,000×0.16×18.806=15,356,762(一円未満切捨て)

(五) 入通院慰謝料 一六〇万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は一六〇万円が相当である。

(六) 後遺障害慰謝料 三三〇万円

前記のとおり、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表一一級に該当するものであり、原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、三三〇万円が相当である。

3  損害額(過失相殺後)

右2に掲げた損害額の合計は二七一八万五九九一円(積極損害二二六万四三六五円、消極損害二〇〇二万一六二六円、慰謝料四九〇万円)であるところ、前記の次第で二割の過失相殺を行うと、二一七四万八七九二円(積極損害一八一万一四九二円、消極損害一六〇一万七三〇〇円、慰謝料三九二万円)となる(一円未満切捨て)。

4  寄与度減額

原告は、本件事故前から、骨粗鬆的骨体(一ないし二度)であり、このような素因が、本件事故と相当因果関係のある範囲の原告の傷病の発生、症状の発現及び継続についても寄与するところが存したものと認められるから(乙二)、民法七二二条二項の類推適用により一割五分の寄与度減額を行うのが相当である。

被告は、原告には、本件事故前から脊柱後彎変化があったと主張するが、原告にみられる第八胸椎の脊柱後彎変化は圧迫骨折による後方湾曲によるものとみる余地があり(乙二)、被告の主張する右事実を認めることはできない。

過失相殺後の前記損害額二一七四万八七九二円(積極損害一八一万一四九二円、消極損害一六〇一万七三〇〇円、慰謝料三九二万円)につき、一割五分の寄与度減額を行うと、一八四八万六四七三円(積極損害一五三万九七六八円、消極損害一三六一万四七〇五円、慰謝料三三三万二〇〇〇円)となる(一円未満切捨て)。

5  損害額(損害の填補分控除後)

原告は、本件事故に関し、労災から療養補償給付として一七三万九〇〇〇円、休業補償給付として一五六万六七八三円、自賠責保険から三三一万円の支払を受けているので、前記一八四八万六四七三円(積極損害一五三万九七六八円、消極損害一三六一万四七〇五円、慰謝料三三三万二〇〇〇円)から、療養補償給付については積極損害から、休業補償給付については消極損害から、自賠責保険金については費目限定をすることなく、それぞれ控除すると、積極損害については残額はなく、消極損害と慰謝料の残額合計は一二〇六万九九二〇円となる。

6  弁護士費用 一二〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は一二〇万円をもって相当と認める。

三  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面

交通事故現場見取図

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